更新日:2024年5月22日

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NexMo第6回(令和3年1月号)

第6回/新型コロナウイルス感染症とこころの健康

NexMo第6回2

ネクモ第6回

寄稿者

鹿児島大学法文学部心理学コース(人文学科)

教授/安部幸志

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広報1月号1(PDF:776KB)

広報1月号2(PDF:689KB)

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はじめに

新型コロナウイルスが最初に確認されてから1年になろうとしています。この1年の中で日本だけでなく世界中の人が混乱に陥り、不自由な生活を続けているのはご存じのとおりです。このような制限のある生活を続けていくことによって、精神的・身体的な健康が低下していくことが知られています。一方、このような状況の中でも、明るく、いきいきとした生活を続けていらっしゃる方もおられます。

今回は新型コロナウイルスがこころの健康に与える影響について、最近わかってきたことをご紹介するとともに、こころの健康を維持するための方法について述べたいと思います。

こころの健康へ新型コロナが与える影響

現在のところ、高齢者が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいと言われているため、積極的な外出や他者との交流が控えられているのはご存じのとおりです。

このような状態が続くと、社会とのつながりが減少し、うつ病や不安症のリスクが高まると言われています。特に、一人暮らしの方、親しい友人が近くに住んでいない方、新型コロナウイルスによってシルバー人材センターやボランティアなどの活動が制限され、他に社会とのつながりを持つことが難しい方などのリスクが高いとされています。

また、多くの高齢者はインターネットなどを介したバーチャルなつながりを持つことには消極的ですので、今回のように自宅外での交流が難しい状況になると、新しい社会的なつながりを作ることは難しく、こころの健康を悪化させてしまいがちです。

パンデミックと自死・自殺行動

常に悲しいことですが、過去の事例からはパンデミック、つまり感染症が大流行すると高齢者の自殺率が上昇することが知られています。例えば、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が世界的に流行したとき、高齢者の自殺率はそれまでと比べて30%も高くなっています。日本における新型コロナウイルスと自死・自殺行動の関係を調べた研究はまだほとんどありませんが、11月30日時点で新型コロナウイルス感染症による死亡者数は合計で2119名となっている一方、10月の自殺者数は2158名となっており、新型コロナウイルスによる死亡者数を1か月で上回った数字が報告されています。令和元年10月の自殺者数は1616名であったため、明らかに自殺者数は増加傾向にあるように考えられます(図1)。新型コロナウイルス感染防止のために外出を控え、交流を控えることは、認知機能の低下だけでなく、こころの健康にも大きな影響を与えていることが明らかだと思われます。

図1

新型コロナとエイジズム

新型コロナウイルスが人々に与えた心理的影響の一つに「エイジズム」があります。「エイジズム」とは簡単に述べると「高齢であることを理由とした差別や偏見」のことです。新型コロナウイルスの初期感染拡大時に、高齢者だけがかかる病気と思われ、他の世代から距離を置かれることがありましたが、これは高齢者に対する根拠のない差別や偏見であり、エイジズムの一種だと思われます。現在では、若年の感染者の方が目立つようになり、高齢者だけの病気だと思っている方は少ないと思われますが、外出自粛が解除されたときであっても、高齢者は若者と比べて、外出を控え、人と会うことを避ける傾向にあることが報告されています。つまり、新型コロナウイルスに関するエイジズムが、高齢者の日常的な外出や交流への負担感をもたらし、こころの健康に影響を与えているのです(図2)。

図2

こころの健康を維持するために

これまで述べてきたように、高齢者のこころの健康に影響している要因の一つは、やはり社会的なつながりであり、他者との交流が不足していることが大きく影響を与えていると思われます。親族や友人と積極的に交流することが必要なのですが、施設や病院に入所している基礎疾患がある高齢者と頻繁に面会することは、現状ではやはり難しいかもしれません。アメリカでは大学が主体となって、高齢者と電話を通じて会話を行うプログラムが実施されており、社会からの孤立感が減少したという報告があります。日本では、個人情報保護の観点から、電話番号や住所を知らない組織に提供することへ抵抗がありますし、実際に高齢者を狙った詐欺も発生していますので、電話を通じた交流機会を作ろうとしても、なかなか難しいと思います。私たちの研究室では、2年ほど前からさつま町の認知症カフェに参加し、高齢者と学生・教員との交流を継続的に行っています(図3)。

図3

しかしながら、2月を最後に認知症カフェへの参加を見合わせており、せっかくの交流が途絶えてしまいました。対面での交流は出来ずとも、何か他の形での交流は出来ないか、認知症を予防するような刺激となることは出来ないかと考え、9月末から学生と高齢者との間で直筆の手紙を月に1回やり取りするという、文通プロジェクトをはじめました。

手紙を書くことは、認知機能の低下を予防するための知的活動として効果があるとされていますし、直筆で何度も書いたり消したりしながら書くことで手先の刺激にもなります。また、孫世代の若者と手紙をやり取りする中で、対面での交流では話せないような具体的な若者の悩み(コロナ状況下における就職活動など)を知ることは、感情的な刺激にもなり、脳機能、特に前頭前野を活性化することが期待できます。そして何よりも、手紙という形ではありますが、交流を継続し、つながりを持つことによる安心感は精神的な安定をもたらすと思われます。何事にも効率化が叫ばれ、年賀状などの季節の挨拶も廃れがちではありますが、手紙を通じて友人・知人・親族と交流することは、良い側面もあると思われますので、負担にならない範囲で取り組んでみてはいかがでしょうか。

おわりに

こころの健康には当然身体的な健康も関わっていますし、社会との交流も重要な役割を担っています。また、エイジズムのように、社会全体として対策をする必要がある要因もあります。例えば、行政が高齢者を「虚弱で保護すべき対象」として扱うのではなく、「地域を支えてきた功労者」として尊敬の念を込めた情報提供の仕方をすることで、地域のエイジズムを変えていくことができるとされています。コロナとの戦いも1年が経ち、そろそろコロナ後のことも考える必要が出てきました。この厳しい状況の中で学んだことをもとに、ともにさらに住みやすい地域を作っていきましょう。

このページに関するお問い合わせ先

垂水市役所保健課元気プロジェクト係

鹿児島県垂水市上町114

電話番号:0994-32-1111

ファックス:0994-32-6625

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